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2022年11月8日

Institution for a Global Society社のコンピテンシー評価・分析についての勉強会

2022年10月5日、第9回研究者コンソーシアムを開催致しました。これまで議論し勉強会を重ねてきた、子どもや学生のエージェンシーやコンピテンシーをどう評価し分析するかについて、日本の多くの企業・自治体や学校での導入実績をおもちのInstitution for a Global Society(以下、IGS)株式会社取締役の中里忍様(「きょうそうさんかくたんけんねっと」のエンパワーメント・パートナー兼研究者コンソーシアムのメンバー)よりお話を頂きました。


まず、IGS社が、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる。」という理念のもと、自分の内面を定量的に評価し自己を肯定できる人が増えることを願い、評価・分析ツールAi GROWを開発していること、Ai GROWは数多くの大手起業の新卒採用試験や人事評価に採用されているだけでなく、これまで困難であった「見えない学力」の定量化により、生徒を公平かつ多面的に評価する「観点別評価」を行って、教育現場の先生方や学校、教育委員会等を支援していることが紹介されました。


計測されている観点は、気質(Personality)とコンピテンシーです。ただし、気質とコンピテンシーの良し悪しを判断するのではなく、その子どもがどのような特性を持っているかを知るために計測し、知識を獲得するための根底となる素質を把握しようとされています。



より具体的には、ビッグファイブ理論(外向性、開放性、繊細性、協調性、自律性)や、360度コンピテンシー評価(課題設定、創造性、自己効力、成長志向等)の25のコンピテンシーなど、多くのコンピテンシーのラインアップが準備されています。その学校や地域が「知りたい」と思う子どもの気質及びコンピテンシーを選ぶことができ、それらを子どもたちがスマホで操作することによりリアルタイムで可視化・定量化することが可能となっています。


生徒への質問は、段階ごとのルーブリックで設定されています。例えば論理性のコンピテンシー測定であれば、「自分の成績が思ったより悪かったとき」や「社会問題について作文をかくとき」や「文化祭で誰かが変なこと言ったとき」や「決まらないとき」などのシチュエーションを構想してそれに対してルーブリックの第1レベル~第4レベルまでを構築しています。第1レベルだと、「試験の結果に一喜一憂するだけでなぜ悪かったのかを考えない」が、第4レベルだと「なぜ悪かったかを分析し、考えられる解決策を考える」、といった感じです。前述の通り、生徒はそれを回答することによって「良し悪し」が判断されるわけではなく、どのようなタイプの人間か、ということが分かるようになります。例えば、最初の画面で「あなたはアインシュタイン・タイプ!」という歴史上の偉人に例えて気質・コンピテンシーが伝えられるため、生徒にとっても面白く、盛り上がって評価結果を読んでいるそうです。


 

このように、中里さんより、AI技術を駆使して非常に綿密な計画をもとに開発された評価・分析ツールをご説明頂いた後、コンソーシアムのメンバーからは様々な感想・質問が出されました。質疑応答や感想例は以下の通りです。


  • Q:ジェンダー差、クラス間差はあるのか?→A:ジェンダー格差はあまり見られないが、クラス、特に先生の能力・スキルによって差が出ている。

  • Q:25のコンピテンシーの作成方法は?→A:OECDのDeSeCoのコンピテンシーや文科省の学習指導要領、米国のコーン・フェリー社が提示している世界で活躍する人材の行動特性等を検証し、25項目のルーブリックを開発した。

  • Q:生徒へのフィードバックはいつ行われるのか?→A:直後である。自己評価も他者評価も比較できる。子ども用には、「周りも自分も気づいている能力」や「周りが気づいていないあなたの能力」といった四象限に分け、他者評価と自己評価の差を出すようにしている。

  • Q:変わりやすいコンピテンシーはあるのか?→A:他者系のコンピテンシー(寛容性など)が高くなった、という傾向はある。しかし観察のしやすさなどで出ている可能性もあるため、IGS社としては同じ生徒群を年に3回程度測定し、各人の行動変容を見ることを推奨している。

  • 感想:コンピテンシーの数値が高ければ良いという問題ではない、と思った。自分の持っているコンピテンシーを認識できて、そこに合う(働く)環境を見つけることが大切なのですね。→中里:その通りである。大手企業は5年前くらいまでは比較的同質性の高い人材を欲しがっていたが、近年はpeople analyticsを使って多様性を確保する志向になってきた。若者がオリジナルでもつ高い特性を企業にアピールすることが出来る時代になってきた。

  • 感想:エージェンシーを測られるのを嫌がる子どもがいるが、自己理解やキャリアとのマッチングに繋がる使い方をするのであれば良い面があると思った。開放性が高い若者が、自分が「開放性が高い」と理解し就職で首都圏に行ってしまう課題についてどう解消出来るのかが難しい。→中里:近年は、地元が育てた人材をどう地元に貢献できるようにするか、が地元企業の関心事。地元への愛着は育てられても、行動は変えられない。残る生徒と出ていく生徒への対応をそれぞれ考える必要があるだろう。一方、魅力的・刺激的な首都圏を目指して外に出ていく若者は、メタバースの世界で刺激欲・開放性の欲を埋められるかもしれない。そういった意味で、今後はデジタルリテラシーが重要となるので、デジタルリテラシーの測定も必要になってくると思われる。


時代の最先端をいく評価・分析ツールをご紹介頂き、研究者コンソーシアムに多くの学びを与えて下さった中里さんに心より感謝申し上げます。今後もコンソーシアムでは、多様な視点から日本の生徒・学生のエージェンシーや非認知コンピテンシーの測り方を検討して参りたいと思っています。


参考URL:https://www.aigrow.jp/aigrow

研究者コンソーシアム

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