2022年11月8日
OECD・東京学芸大学ワークショップのプレセッションを開催しました
2022年3月28日、東京学芸大学とOECDの共催ワークショップのプレセッションにおいて、本研究者コンソーシアムによるセッション「教育のイノベーションにおけるコレクティブインパクト・OECD Education 2030の書概念から日本の教育を考える」が開催されました。
セッションでは、研究総括の秋田喜代美教授(学習院大学)から本コンソーシアムの概要と目的についてご紹介された後、滝本葉子研究員(東京学芸大学)より「鍵となる概念」としてエージェンシー、エコシステム、コレクティブインパクト」の3つの概念について紹介されました。「子どもたちが変化を起こすために自分で目標を設定し、振り返りながら責任ある行動を取る能力」である生徒エージェンシーを実現するアプローチとして「地域エコシステム」(有機的な生態系としてカリキュラムデザインの意思決定を行うアプローチ)について紹介されました。また、第2回・3回の研究者コンソーシアムで議論した「コレクティブインパクト」の概念と潮流、原則等が紹介され、セクターの壁を越えて地域の多様なステークホルダーで教育、学び、カリキュラムを支えていく、自律的に変えていく必要性が共有されました。
続いて、KSTNの東京、熊本、新潟の各地域エコシステム・ユニットから各地域での取り組みが紹介されました。まず東京エコシステム「リ・デザイン東京2030」の小玉教授(東京大学)と松尾教授(東京学芸大学)からは、多様な人々・主体が、「間」の共有によって集う空間(コモンズ)=エコシステムを創出することによって、声を形にするエージェンシーを育めるような自律分散的なハブ・システムの構築を目指していることが共有されました。ファシリテーター養成やワークショップの開催、多様な人や団体との協働により、子ども・生徒学生・大人が対話し、誰もが幸せに学び、幸せに生きる未来の東京をデザインすることが目指されています。
二番目に、熊本市教育委員会の塩津さんより、熊本市の地域エコシステムの取り組みが紹介されました。熊本市は、豊かな人生とより良い社会を創造するため(Well-being)のため、自ら考え主体的に行動できる(Agency)人を育む取り組みを具現化するアクション、Kumamoto EduActionを実施しています。3つの活動の柱は、①学校と社会をつなぐ(社会と連携・協働した教育活動の推進)、②教育エコシステムの構築(学校のみでなくフリースクールや民間団体とも連携して教育課題を解決する)、③優れた学びや実践を世界へ発信し世界の教育の発展に貢献すること(Kumamoto Education Week(2022/1/22-30での発信)、であり、学校・授業の改革を通して価値観・視野が広がることを目指しています。
(参考HP:https://kumamoto-ew.jp/)
三番目に紹介されたのは新潟県の地域エコシステム「つなぎ、つながる新潟ねっとわーく」です。新潟大学の土佐幸子教授、新潟大学附属中学校教諭の山田耀先生から、県内の企業や小中学校等、「コレクティブインパクト」としていろいろな人や組織が参加していること、「私たちの想いを共有すること」から取り組みがスタートしたことが紹介されました。附属新潟中学校では、先生方が「エージェンシーってなんだろう」と疑問をもったことから取り組みが始まりました。きっかけは昨年度のある演説会で、生徒から「閉塞感を感じている」「やりたいことができない」という声があったことだったそうです。その後教師たちが抱いている「もっと生徒を活躍させたい!」という願いが生徒の思いと同じだということ、カリキュラムのあり方を見直す必要があることに気づかされました。その後「自治」のもとに教師・生徒一丸となって「よりよい学校を求めて、自分たちのことを自分たちで決め、責任を果たしていく」こと、ここにウェルビーイングのためにエージェンシーを発揮できるようにして一緒に附中を創っていくことが方向づけられたと言います。山田先生は、「エージェンシーを育むことに大切なことは、答える(成否を判断する)ではなく、応える(寄り添って共に考える)ことなんだと思います、この取り組みを通してそこに気づくことができました」と語られました。
発表後は、参加者と発表者はブレークアウトセッションで小グループに分かれ、感想や「コレクティブインパクトとは」について考えたことが共有されました。参加者の皆さんからは、「新潟の取り組みが興味深かった」「新しい風が吹いてきた感じ」という感想や、教師の方からは「学校が忙しすぎて子どもの声を最後まで聴くことが出来ない」といった困難な実情も共有されました。
KSTNの研究者コンソーシアムとして初めての発信の場となりましたが、コレクティブインパクトの概念や地域エコシステムのご紹介、そして日本の参加者の皆さんとの議論を通して、充実したセッションを設けることが出来ました。今年度も実りある場となるよう、企画していきたいと思っております。